映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」の主役、ジョニー・デップが演じた「ジャック・スパロウ」のモデルではないか?と言われているのがこの「ジョン・ラカム」
ちなみに「ジャック」は「ジョン」の愛称であるため「ジャック・ラカム」と紹介されることも多い。
ラカムの海賊旗は映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」でもブラックパール号の旗として使われた。

ラカムはキャラコ(白木綿)の衣服を好んで着用したので「キャラコ・ジャック(ジャックはジョンの愛称)」と呼ばれた。
ラカムが海賊船の船長になったのは1718年。
この頃ラカムは海賊チャールズ・ヴェインの操舵手をしていたが、ある日フランス軍艦と遭遇したときのこと、
ラカムは「攻撃すべき」と主張したが、船長のヴェインは「軍艦は我々の手には負えない」として回避する決定を下した。
ヴェイン船長の「軍艦は襲わない」という決定は現実的なものだったのかもしれないが、ラカムを慕っていた若い海賊達は、納得せず、結局ヴェイン船長は「臆病者」の烙印を押され、船長を降ろされる事になった。
こうして船長になったラカムだったが、このとき追放したチャールズ・ヴェイン元船長やその一派に対して、放り出すのではなく十分な食料を用意した上に船まで与えて追放するという、当時の海賊としてはあり得ないほど寛容で慈悲深い対応をみせる。
彼は生涯「他人を傷つけたことは無い」と公言していた。
真偽はともかく、海賊としては信じられないほど人のよい男だったことは間違いなさそうだ。
かと言ってラカムが海賊として劣っていたかと言えばそんな事はなく
非常に機動力に優れた小型のスループ船を使って、スピード重視で獲物を狙い、かなり稼いだと思われる。
彼が小型船を主に襲ったのには訳がある。
この時代(18世紀)になると世界中いたるところで交易が活発になり、海賊にとっては獲物こそ増えたものの、各国が海賊対策にも相当な力を入れるようになっていた為、海軍はもちろんのこと海賊退治を依頼された私掠船も超強力だった。
そのためラカムのような小規模な海賊が狙う船はもっぱら小さな商船とかに限られてしまい、以前のように一回の襲撃で莫大な財宝を手に入れるというような海賊サクセスストーリーは夢物語になっていたのだ。
1719年5月、ラカムは海賊船の船長になってわずか半年余りで船を下りる決心をする。
バハマで海賊に対する恩赦が発令され、ラカムもその恩赦を受ける事にしたのだ。
海賊に対する恩赦とは「これまでの海賊行為を悔い改め、真面目な職に就く」と言う誓書を提出する事で、これまでの罪を許してもらい、一般人になる事が出来ると言うもの。
海賊は捕まれば高確率で死刑だったので、このような恩赦は多くの海賊の足をあらわせるには効果の高い政策であり、当時は海賊撲滅のために時折発令され、特に珍しいことではなかった。
ラカムはバハマでしばらくは優雅な暮らしをしていたようだが、ここで運命の女性と出会う事になる。
彼女の名はアン・ボニー(Anne Bonny)

資産家の娘だが、非常に男勝りで気が強く、使用人をナイフで刺し殺してしまった事もあるほど短気で勝気な娘だった。
それでも資産家の娘だったので縁談は山ほどあったが、彼女は海での生活に憧れ「ジョン・ボニー」と言う海賊あがりのチンピラ水夫と駆け落ちし、バハマで暮らしていた。
そろそろ夫にも飽き始めていた頃、容姿端麗で人望の厚いジョンラカムに出会い、彼女は一目で恋に落ちる。
ラカムの方も美しいアンに一目ぼれ。
2人は何とか一緒になりたかったのだが、厳格なカトリック世界では不倫などけっして許されない事であり、アンは罰として鞭打ちの刑を言い渡されてしまう。(夫とは金で和解している)
それでも燃え上ってしまった恋心を抑える事は出来ず、2人は駆け落ちを決意し、スループ船を盗んで、ラカムはまた海賊に逆戻りしたのだ。
そしてアンは身籠り、一時キューバの親戚の家に身を寄せ出産したが、無事出産するとラカムの船での海賊稼業に舞い戻る。
せっかく受けた恩赦を「恋」のためにあっさり捨ててしまうあたり、いかにもラカムらしく、これも彼の現代における人気の要因の一つかもしれない
ラカムの船には実は後にもう一人の女海賊が加入することになる。
名をメアリー・リードといい、後にアン・ボニーとは無二の親友となり、2人とも歴史に名を残す戦いに身を投じることになる。
(2人の女海賊のお話はそれぞれの紹介ページでご確認ください。)
女性を船に乗せるなんて当時は縁起が悪いとされており、船乗りにとっては絶対にご法度。
しかし根っからの自由人ラカムはそんな事は全く気にしてはいなかった。
1720年のある日、ラカムは酒盛りの途中を英国軍に見つかり船で逃走を試みるが追いつかれ、ラム酒で酔っ払っていた男達は逃げ隠れした挙句あっけなく捕まってしまう。

逃げ回る男達を叱咤しながら最後まで勇敢に戦ったのはアンとメアリー2人の女海賊だったが、やがて抵抗むなしく捕縛された。
ラカムが絞首刑になる直前、アンと面会を許されるが、そのときアンは
「あの時あんたたち(船の男ども)が勇敢に戦っていれば、犬みたいに吊るされることは無かったんだ」
とラカムを罵倒したと伝わっている。
女海賊2名、アンとメアリーは身重だったこともあり死罪は免れたが、ジョン・ラカム船長は絞首刑になり、遺体は晒された。
ジョン・ラカムは悪名高い海賊でありながら生涯いたずらに人を傷つけるような事はしなかったと言われる。
神出鬼没で逃げ足が速く、追手を翻弄し、なかなか捕まらない要領の良さを見せたかと思うと、逆にどこか間が抜けた憎めない男。
酒と女が大好きで、頼りないけど周囲の人達には好かれ、自身は自由奔放に生きた男。
壮絶な覇権争いを繰り広げていた他の海賊とは一味違う生き様を見せたジョン・ラカムは現代でも人気のある海賊の一人だ。
