アフリカ大陸最南端の喜望峰付近では幽霊船伝説「フライングダッチマン号」が有名ですが、南アメリカ大陸最南端にも「白い老人伝説」という有名な怪奇伝説があります。
南米大陸の最南端の「ホーン岬」は、マゼラン海峡より南に位置し1615年オランダ人航海家のウィレム・コルネリス・スハウテンとヤコブ・ル・メールによってその存在を確認されました。
このホーン岬周辺海域もアフリカ最南端の喜望峰周辺海域に劣らずよく荒れる海で難破船の絶えない難所です。
この海域に伝わる伝説に「白い老人伝説」と呼ばれる怪奇伝説があり、海が荒れる日は「けっして後ろを振り返ってはいけない」とされています。
「白いローブを身にまとい杖を持った老人が船のあとを追いかけてくる」
と言われ、その老人の姿を船員が一人でも見てしまうと、その船は必ず沈むと言われているからです。
ところが、実際は荒れた海を航行する際に「後ろを振り返らない」なんて相当無茶な話で、前後左右、全ての方向に注意を払いながら嵐を乗り切る努力が必要です。
専門的なことはよく判りませんが海上における南半球の風は北半球の風とは全く質が違うと聞いたことがあります。

南半球には陸地が20%しかなく風がぶつかる障害物が北半球に比べると少ない(北半球は40%が陸地)ことが、全く質の違う風を生み出す要因の一つらしいです。
陸地が少ないことは風のみならず潮流にも影響を与えますが、ホーン岬の緯度には潮流を遮るような陸地は全くありません。
そのためでホーン岬周辺の海は年中荒れ放題で、船の背後から襲ってくる「追い波」という雪崩のような状態になる特徴があり操舵手は背後を振り返りながら大きな波を避けつつ舵をとらなくてはなりません。
「後ろを振り返ってはいけない」という伝説にとらわれ過ぎるあまり、全く後方を確認せず航行するのは非常に危険です。
「白い老人伝説」なんて今の時代にはバカバカしいようなおとぎ話かも知れませんが、当時の船乗りにとっては大切な先人の教えであり、仮に間違っているとしてもけっして疎かに出来るような事ではありません。
ただ、この伝説がより多くの事故を誘発したんじゃないだろうか?という皮肉は感じてしまいます・・・・・
白い老人の伝説を恐れ、あくまでも後ろを振り返ることなく航行を続けるか?
恐怖におののきながらも伝説はあえて無視し、背後から襲ってくる追い波を回避しながら進むか?
大航海時代当時、この海域を航行する船乗りたちは大きなジレンマを抱えながらの航行だったことでしょう。