現在のトルコ南西部にあったハリカルナッソスの女王で「戦場を駆ける女」と言われた戦士。

ヘロドトスの歴史に登場する史上最古の女海賊で、紀元前480年のギリシア艦隊とペルシア艦隊の間で行われたサラミスの海戦ではペルシア側につき、敗れはしたもののギリシア軍を大いに苦しめたことが描かれている。

このサラミスの海戦とは紀元前492年から続くペルシア戦争での一場面だが、それまでペルシアは圧倒的優位に戦いを進め、実際にその時点ではギリシア軍内部には戦後の保身のため情報をペルシア軍に提供するものまで現れるほど追い詰められていた。

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サラミスの海戦

ギリシアはサラミス島に艦隊を集結させ、なんとかペルシア軍をおびき寄せ一大決戦に備えようとしたが、その情報さえもペルシアには筒抜けで、戦力もペルシア艦隊の方が倍近くの船を持っており、本来ならギリシアが勝てるような戦いではなかった。

戦う前から戦勝ムードのペルシア軍にあって、実はアルテミシアはサラミスでの海戦には反対だった。

アルテミシアはギリシアの海軍力を侮ってはいけないと味方を諌め、兵力で圧倒している陸戦でペロポネソスの心臓部を攻撃すべしと主張したのだ。

ペルシア王クセルクセス1世は、アルテミシアの意見を賞賛したが、この作戦は採用されなかった。

普段からアルテミシアは周囲の提督からは何かと妬まれており、この軍議における直言も多くの提督たちによって強硬に阻まれてしまったのだ。

当時のエリート提督達から見れば、小国の女王が海賊行為で名を上げたぐらいで調子に乗りやがって・・・ってところか?

彼女を疎ましく思う提督達は約半数ほどだったと思われるが、彼らは「この戦いはわが軍が圧勝するのは間違いが無い、なのに猛反対したアルテミシアは失脚する事になる」と喜んだという。

決戦当日ペルシア王クセルクセス1世は勝利を確信し、戦いを一望できる丘の上から高みの見物をきめこんだ。

しかし・・・

戦いが始まると、士気のうえでも技量のうえでもギリシア軍が圧倒し、おまけに狭い海峡の特性を生かしたギリシア軍の誘い込み作戦にペルシア軍はなす術が無かった。

アルテミシアの危惧していたことがことごとく当たってしまったのだ。

総崩れとなって逃げ惑うペルシア軍。

この不利な状況下ではさすがのアルテミシアも苦戦を余儀なくされ、アテナイの戦闘艦につかまりそうになったそのとき、味方であるカリドナ王ダマシテュモスの船が、こちらに横腹を見せながらのろのろと航行しているのがアルテミシアの目に入った。
ダマシテュモスとアルテミシアの間にどのような人間関係が構築されていたのかは判らないが、

少なくとも彼は下らない妬みで軍議においてアルテミシアの意見を潰した多数の提督の一人ではあった。

ペルシア全軍が撤退に命を掛けているこの状況下、なにを暢気に戦場を横切っているのか?彼女には理解できなかったのだろう。

素早く決断を下したアルテミシアは、自分の船のラム(船の先端部についている衝角)をそのままダマシテュモスの船のどてっ腹に突っ込ませた。
それを見たギリシア軍は、アルテミシアの船を味方の船だと思い込み追撃をやめたので彼女は逃げきる事ができたのだ。

また味方も退却中のアルテミシアの行く手を阻もうとするギリシア船にアルテミシアが突っ込んだように見えたのか、彼女の武勇を賞賛したという。

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アルテミシア

 

この事件を記録した歴史家のヘロドトスもこの行為を非難するどころか「勇気ある行動」「優れた策」として評価したうえで後世に伝えたのだ。

そのヘロドトスによれば、この戦いのころアルテミシアにはすでに成人した息子もおり、彼女がわざわざ危険な戦場に出る必要は無かったという。

後の研究者達はこれも彼女の生来の豪気さから来るものであろうと分析されている。

<参考>

実は同じ地域(ハリカルナッソス)にしかも全く同じ立場(女王)で名前も同じ「アルテミシア」という女性がちょっとした時間差(約100年の差)で歴史に登場します。

夫の死後に女王に即位し、ギリシャと戦ったなんてところまで同じなので非常に紛らわしい。

100年の時間差は大きい気もしますが、なにしろ紀元前の話ですから「書き間違い?・説の違い?」ぐらいに考えて流し読みしてしまうと2人が別人である事に気づくのも困難なほど、2人の置かれた立場や巻き込まれた事件は似ています。

ただこの2人、面白い事に性格だけは見事なまでに正反対^^;

もう一人のアルテミシアは「世界一美しい墓標を夫の為に建てたい」と願い、後に古代世界七不思議のひとつとなる「マウロソス霊廟」を建造した女性であり、夫のあとを追うかのように夫の遺灰をワインに混ぜて飲みほし息絶えたと言われる、いわば献身的な妻の象徴のような女性です。

(人が遺灰を飲んで死ねるのか?管理人は知りません^^;)

このアルテミシアと前述の女海賊アルテミシアが別人である事を知っている人なら混乱はしないでしょうが、別人である事を知らない人(管理人がそうでした><)がこんな夫想いの女性的なエピソードを見せられると「女海賊アルテミシアにはそんな一面もあったのか!」「もしかしてツンデレ?」などと勘違いしてしまいますし、実際に勘違いして2人のエピソードを混同しているサイトも時折見受けられます。

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アルテミシア 2世(海賊ではない)

市販されている本で上の写真(女性っぽい方のアルテミシアです)を女海賊アルテミシアとして紹介しているものもあります。

実は管理人Pochiももう少しで騙されるところでした^^;